大阪地方裁判所 平成2年(わ)1628号 判決 1991年7月12日
本籍
大阪府岸和田市下池田町三丁目三六九番地の五
住居
同市下池田町三丁目一〇番二六号
不動産仲介業
西村忠昭
昭和一一年三月八日生
主文
被告人を懲役一年四か月及び罰金三五〇〇万円に処する。
この罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。この裁判確定の日から三年間懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は、不動産仲介業を営む傍ら、株式取引を行っていたが、自己の所得税を免れようと企て、
第一 昭和六一年分の総合課税の実際総所得金額が一億四九二万八〇九〇円、分離課税の短期譲渡所得金額が二五九万六九六〇円あった(別紙修正損益計算書(一)参照)のにかかわらず、株式の継続的取引による雑所得の全部を除外するなどの方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六二年三月一六日、大阪府岸和田市土生町二丁目二八番一号所在の所轄岸和田税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総合課税の総所得金額が二九九万九〇〇〇円、分離課税の短期譲渡所得金額が二五九万六九六〇円で、これに対する所得税額が一〇三万七二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過せた。その結果、同年分の正規の所得税額六一四五万三七〇〇円と申告税額との差額六〇四一万六五〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。
第二 昭和六二年分の実際総所得金額が八五二〇万四〇四三円あった(別紙修正損益計算書(二)参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六三年三月一五日、前記岸和田税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が四六六万円で、これに対する所得税額が一四万三五〇〇円(ただし、申告書では誤って四万三五〇〇円と記載したもの。)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させた。その結果、同年分の正規の所得税額四二九三万七九〇〇円と申告税額との差額四二七九万四四〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。
第三 昭和六三年分の実際総所得金額が一億三五九五万四〇八七円あった(別紙修正損益計算書(三)参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿した上、平成元年三月一五日、前記岸和田税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が六〇一万円で、これに対する所得税額が二〇万一四〇〇円(ただし、申告書では誤って一〇万二四〇〇円と記載したもの。)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させた。その結果、同年分の正規の所得税額七一二六万四二〇〇円と申告税額との差額七一〇六万二八〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。
(証拠)
(注)括弧内の算用数字は証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。
全部の事実について
一 被告人の公判供述
一 被告人の検察官調書
一 被告人の質問てん末書四通
一 北口勝重、増田治子(二通)、樋口清子、古門達雄及び青木政秋の検察官調書
一 北口勝重(二通)、西村多美子、中辻隆次(二通)、増田治子、樋口清子、上代正雄、古門達雄(二通)及び青木政秋の質問てん末書
一 査察官調査書六通(8から11、13、14)
一 調査報告書
一 電話聴取書
判示第一の事実につき
一 証明書(4)
判示第二の事実につき
一 証明書(5)
判示第三の事実につき
一 査察官調査書(12)
一 証明書(7)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、第三の事実について、被告人は、昭和六三年末にNTT株一九〇株を保有していたが、その株価の低落により同年末現在で合計九二二三万円余りの評価損を生じた。この損失は、所得税五一条四項にいわゆる資産損失と考えることが可能であるから、その評価損相当額を昭和六三年分の必要経費に算入すべきであると主張する。そこで、判断すると、所得税法五一条は、同法三七条の必要経費についての別段の定めではあるが、その一項及び二項は、事業用の固定資産や繰延資産の除却等による損失の額及び事業の遂行上生じた売掛金、貸付金等の貸倒れ等による損失の額を必要経費に算入すること、四項(三項は山林について災害等により生じた損失の額を必要経費に算入する旨の規定である。)は、事実に至らない規模の貸間等の業務に係る固定資産の除却等による損失の額及び非営業貸金の元本の貸倒れ等による損失の額を損失の生じた年分の不動産所得又は雑所得の金額の範囲内で必要経費に算入することを認める規定であると解される。したがって、有価証券の売買を継続的に行っている場合において、その年の一二月末日現在で未売却の有価証券について、時価の低落による評価損が生じたとしても、その評価損相当額は、所得税法五一条一項、二項の資産損失はもとより、同条四項の資産損失にも該当しないことは明らかである。法人税法と異なり、有価証券の評価損の損金算入(法人税法三三条二項、同法施行令六八条二号)や有価証券の低価法による評価(同法施行令三四条一項一号)を認める別段の定めがない現行所得税法のもとでは、情状としてはともかくとして、所得の計算上のこのような有価証券の時価の低落による評価損を考慮する余地はないものといわざるを得ない。よって、弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
罰条 いずれも所得税法二三八条一項、二項
刑種の選択 いずれも懲役刑と罰金刑を併科
併合罪加重 刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項
労役場留置 刑法一八条
刑の執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項
(裁判官 三好幹夫)
別紙
修正損益計算書(一)
<省略>
別紙
修正損益計算書(二)
<省略>
別紙
修正損益計算書(三)
<省略>
別紙
税額計算書
<省略>